Appleが毎年開催する、世界最大級の開発者向けカンファレンス WWDC 2025において、新たなプライバシー規制強化が発表されました。
従来は、Safariの「プライベートモード」に限定されていた広告計測制限。その機能が、通常ブラウジングにも拡大される可能性が示唆され、デジタルマーケティング業界に大きな波紋が生まれています。
プライバシー規制強化で何が変わるの?
今回示唆されたプライバシー強化アップデートが行われると、どのような変化が生じるのでしょうか。
ここでは、具体的なアップデートの内容と影響を受けるツールをみていきましょう。
従来の制限から通常モードへの拡大
これまで、Safariの「プライベートモード」には以下のような制限がありました。
- 広告や分析ツールの計測タグが発火しない
- URLパラメータが自動削除される
- トラッキングが大幅に制限される
今後は、このような保護機能がデフォルトで適用されるようになる可能性があります。
実際Appleは、Safariのプライバシー強化について以下のような点に言及しています。
- 高度なフィンガープリント保護
→すべてのブラウジングモードで「高度なフィンガープリンティング保護」がデフォルトで有効に - リンクトラッキング保護
→URLに含まれるトラッキングパラメータを自動で削除 - iPhone メッセージアプリにおけるトラッキングパラメータ削除
→リンクを共有する際に、ウェブサイトがURLに追加する余分な情報を自動削除し、ユーザーや共有相手のトラッキングを防止 - iPhone Mailアプリにおけるプライバシー保護
→IPアドレスを隠すなどのプライバシー保護機能
つまり、iPhoneユーザーがSafariの通常ブラウジングでWebサイトを閲覧していたとしても、収集できる情報が大きく制限されるようになるのです。結果的に、広告の効果測定やリターゲティング配信に大きな影響が出てしまうおそれがあります。
※フィンガープリンティング:ユーザーのデバイス情報やブラウザ設定などを組み合わせて、個人を特定・追跡する技術
影響を受ける可能性のあるツール
このアップデートが実装されると、以下のようなマーケティングツールが正常に機能しなくなる可能性があります。
- Google Tag Manager(GTM)
- Google Analytics 4(GA4)
- Google広告タグ
- Yahoo!広告タグ
- Meta Pixel(Facebook Pixel)
想定される具体的な影響は、次のとおりです。
- アクセス数やコンバージョン計測の精度低下
- 離脱防止ツールの未発火
- アフィリエイト計測の精度低下
- リターゲティング広告の配信精度悪化
このような事態になれば、成果を正しく計測できなくなるだけではなく、売上に直接的な影響を及ぼす可能性も出てくるでしょう。
現時点では2つの異なる見解が存在
今回のアップデートは、Webマーケティングを実施するすべての事業者に大きな影響をもたらす可能性があります。
しかし、実際の影響はまだ限定的だと考える専門家も少なくありません。
慎重派の見解
WWDC 2025の発表内容や技術仕様を詳しく確認すると、現時点では以下のような解釈も可能です。
- すべてのタグが即座にブロックされるわけではない
- 「フィンガープリント目的」と判定されたスクリプトのみが対象
- すべての広告タグや分析ツールが機能停止するという確定情報はAppleから未発表
つまり、「制限の範囲は限定的である」という見解です。
実際、2025年6月時点では、GoogleやMetaなどの主要プラットフォーマーから、この変更に対する具体的な警告や対応策のアナウンスは出されていません。このことからも、現段階では「様子見」という立場を選択する専門家は少なくないと推察できるでしょう。
警戒派の見解
一方で、過去のAppleのプライバシー強化アップデート(iOS 14のATTやSafari ITP)が大きな影響をもたらした経験から、今回も重大な変化が起こると予想する声もあります。
懸念されている具体的な影響は、次のとおりです。
- iOSユーザーからのコンバージョンデータの減少
- 広告配信の最適化精度の低下
- ROI計測の困難さの増大
特に、Appleが一貫してプライバシー保護を強化してきた流れを考慮すると、今回の変更も軽視すべきではないという見方が示されています。
事業者が今すぐ取るべき対策
今回のAppleのプライバシー強化アップデートに対して、Webマーケティングを実施する事業者は、段階的なアプローチで対応することが重要です。
現時点で確定的な影響は見えていないものの、将来的な変化に備えた準備を進めておくことで、影響が生じた際に迅速に対応できるようになるでしょう。
ここでは、事業者が取っておきたい対策について紹介します。
1. 現状把握の徹底
まずは、自社サイトにおけるiOSユーザー比率を確認して、予想される影響を数値で理解することが大切です。そのうえで、以下のような情報の収集を継続していきましょう。
- コンバージョン数の変化
- 各種計測ツールの動作状況
- 広告効果の推移
これらを定期的にチェックし、異常値がないか敏感に監視することが重要です。
2. 長期的な対策の準備
次に、長期的な対策として「ファーストパーティデータの活用強化」に取り組みましょう。
- 会員登録の促進
- メールマーケティングの強化
- 顧客データベースの充実
上記のように、従来のクライアントサイド(ブラウザ上)での計測から、サーバーサイドでの計測に移行することで、ブラウザの制限を回避できる可能性が高まります。
3. 計測環境の多様化
単一の計測手法に依存するのではなく、以下のような複数のアプローチを組み合わせることで、より正確で安定した効果測定が可能になります。
- 従来の計測ツール
- サーバーサイド計測
- ファーストパーティデータ
- オフライン計測との連携
たとえひとつの手法が制限を受けたとしても、他の方法でデータを補完できれば、全体としての計測精度を維持できるでしょう。
まとめ
今回のApple WWDC 2025で発表されたプライバシー強化アップデートは、Webマーケティングに大きな変化をもたらす可能性があります。重要なのは、過度に不安になることなく、自社に必要な対応を見極め、早期から段階的に進めていくことです。
Appleのプライバシー重視姿勢が今後も継続していくことは、間違いありません。この変化を転機として捉え、ファーストパーティデータの活用強化やサーバーサイド計測への移行など、プライバシーを尊重したマーケティング手法への転換を進めていきましょう。
CONTACT お問い合わせ
WRITING 執筆

LIFT編集部
LIFT編集部は、お客様との深いつながりを築くための実践的なカスタマーエンゲージメントのヒントをお届けしています。