これまでAIは、ユーザーの質問に答える「対話」が主流でした。しかし今、その役割が大きく変わろうとしています。
ChatGPTの「Instant Checkout」とMetaの「AI会話データを活用したターゲティング広告」の登場により、AIは情報収集から購入までをシームレスにつなぐ存在へと進化しました。
本記事では、それぞれの機能の特徴について解説します。「AI×広告」機能がこれからのマーケティングにどのような影響を与えるのか、詳しくみていきましょう。
INDEX目次
ChatGPT「Instant Checkout」とは?
ChatGPTが新たに導入した「Instant Checkout」は、検索から購入までの流れをチャット内で完結させる画期的な機能です。
従来、ユーザーはChatGPTで「おすすめのiPhoneケース」や「結婚祝いに喜ばれる商品」といった情報を検索し、回答を得るだけでした。しかし、Instant Checkoutが加わることで、調べるだけでなく、その場で気に入った商品を購入できるようになったのです。
検索から購入までの流れがチャット内で完結するようになれば、ユーザー行動にも企業のマーケティング活動にも、大きな変化が生まれることが予想されます。
Instant Checkoutの仕組み
Instant Checkoutの仕組みを支えているのが、OpenAIとStripeが共同で開発した「Agentic Commerce Protocol(ACP)」という技術です。
ACPは、AIと企業がスムーズに取引できるためのオープンな規格で、既存の決済システムと連携しながら将来のAIコマースにも対応できるよう設計されています。実際にEtsyなどのECプラットフォームではすでに活用が始まっており、Shopifyなど他の事業者への展開も予定されています。
Instant Checkoutの特徴
Instant Checkoutには、従来の広告プラットフォームとは異なる大きな特徴があります。
それは、あくまでユーザーの検索内容に最も関連性の高い商品が提示される点です。つまり、広告商品が優先表示される(広告費で順位を買う)のではなく、「ユーザーの求めている商品ほど自然に表示される」仕組みになっています。
さらに、購入後の支払いや顧客対応については販売事業者が主体となるので、ChatGPTがすべてのプロセスを担うわけではない点もポイントです。
MetaがAI会話データを活用したターゲティング広告を開始
一方、Metaも「Meta AI」との会話をもとにしたターゲティング広告を開始すると発表しました。
Metaは世界で10億人規模の月間利用者を持つ「Meta AI」というチャットボットを、InstagramやFacebookに組み込んでいます。これまではAIと無料で会話できるサービスとして提供されていましたが、今後はその会話内容をもとに、ユーザーに合わせた広告を表示するようになります。
例えば、Meta AIと「読書」について話したユーザーには、InstagramやFacebookに書籍の広告や登山コミュニティのおすすめが出てくる、といった具合です。
開始時期と対象地域
Meta社は、10月7日よりこのアップデートについてユーザーへ通知を開始すると発表しています。アメリカおよび、ほとんどの地域が対象となります。
AIツール各社が目指す収益化戦略
OpenAIもMetaも、便利なAI機能を提供する裏で、共通の狙いがあると考えられます。それは「ユーザーデータを収集し、将来の広告ビジネスにつなげる」ことです。
- OpenAI
→検索データと購買データを結びつけることで、購入につながりやすい精度の高い広告配信の基盤を築こうとしている - Meta
→会話データを活用することで広告の精度をさらに高め、AIへの投資を回収しようとしている
AIを使ったサービスは無料提供や定額課金がほとんどですが、最終的にはどの企業も収益化が大きな課題となっています。Metaは広告、OpenAIはアプリ内購入の手数料という形で、AIの新しいビジネスモデルを模索している状況です。
【考察】AI×広告マーケティングで重要になるポイント
今回紹介した2つの動きから、AI時代の広告マーケティングは以下のように変容していくと予想されます。
「検索と購買データの統合」を意識した戦略設計が重要となる
今回紹介したOpenAIとMetaは、ともに「AIを通じてユーザーの意図と行動を深く理解し、広告の精度を極限まで高める」ことを目指しています。
例えば、OpenAIが検索データと購買データを統合すれば、「何を探しているか」だけでなく「何を買ったか」まで把握できるようになります。Metaは会話データを活用することで、従来の投稿やいいねでは見えなかった「本当の興味関心」を捉えられるようになるでしょう。
今後は、「AIでどのように検索されるのか」「ユーザーがどのように行動するか」まで意識したうえで、顧客との接点やメッセージを設計していくことが重要になります。
チャンスだけではなくリスクも生まれる
AIを活用した広告サービスの提供は、広告主に大きなチャンスをもたらします。ユーザーの意図をより正確に捉えた広告配信が可能になれば、コンバージョン率の向上や広告費の最適化が期待できるでしょう。
一方で、プラットフォーム側がデータを独占することで、広告主と顧客の直接的な接点が失われてしまうリスクもあります。特にInstant Checkoutのように、購入体験そのものがプラットフォーム内で完結するサービスが増加した場合、ブランド体験や顧客ロイヤルティの構築が難しくなる可能性があります。
プライバシー保護と信頼構築が課題となる
AI×広告マーケティングが進化するなかで、広告主が意識すべき課題は、プライバシー保護とユーザーとの信頼構築です。
プラットフォーム側のプライバシー対応の不備は、そこに広告を出稿する企業のブランドイメージにも影響を与えます。ユーザーが「AIに監視されている」と感じれば、プラットフォームだけでなく、そこで表示される広告や広告主企業への不信感にもつながりかねません。
どのプラットフォームを使うか、どのようなデータ活用を許容するかは、企業のブランド価値や顧客との長期的な信頼関係に直結する重要な判断となります。広告主は、短期的な成果だけでなく、透明性のある広告運用を心がけることが重要です。
まとめ
ChatGPTのInstant CheckoutとMetaのAI会話データ活用は、AI時代の広告マーケティングが新たなステージに入ったことを示しています。
これからの広告は、単に「見せる」だけでなく、ユーザーの深層心理を理解し、最適なタイミングで最適な提案を行う高度なものへと進化していくでしょう。マーケティング担当者には、こうした変化をチャンスと捉えつつ、プライバシーや顧客との関係性といった本質的な価値を見失わないことが求められます。
AI技術の進化を追いながら、ユーザーにとって本当に価値のある体験を提供するための広告戦略を構築していきましょう。
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