Protected Audience APIとは、ユーザーのプライバシーを守りつつリターゲティング広告の配信を可能にする、Google ChromeのAPIです。この記事では、Cookie規制時代のWeb広告配信で重要となるProtected Audience APIについてわかりやすく説明します。Protected Audience APIには多くのメリットがありますが、デメリットや課題があることも事実です。仕組みや注意したいポイントを押さえて、これから本格化するポストCookie時代に備えましょう。
いよいよCookie規制の動きが本格化してきましたね……。Chromeでも3rd Party Cookieが廃止されつつありますし、これからはどんな方法でWeb広告を配信すればよいのでしょうか?
広告主企業やマーケターにとって、Cookie規制は大きな問題だよねぇ。引き続きリターゲティング広告を配信したいなら、GoogleのProtected Audience APIに注目してみるといいかもしれないよ。
Protected Audience API……?何ですか、それっ!
INDEX目次
Protected Audience APIとは?
Protected Audience APIとは、Googleが提案する3rd Party Cookieの代替技術です。消費者のプライバシーを保護する「Privacy Sandbox」という取り組みの一部で、ポストCookie時代における安全なデータ活用の提供を目指しています。
これだけを聞いても、どのような技術なのかイメージしにくいかもしれません。ここでは、Protected Audience APIの基本的な知識を身につけていきましょう。
- Protected Audience APIをわかりやすくいうと
- Protected Audience APIが必要な理由
- Protected Audience APIと従来の手法の違い
- Protected Audience APIをオプトアウトする方法
- あわせて押さえておきたいPrivacy SandboxのAPI
各項目について詳しくみていきましょう。
Protected Audience APIをわかりやすくいうと
Protected Audience API(旧:FLEDGE)は、自社サイトに訪れたことがあるユーザーに対して、プライバシーに配慮しつつリターゲティング(リマーケティング)広告を配信できる技術です。
Protected Audience APIは、ブラウザ内に保存した情報を用いて処理を行います。ユーザーを識別して追跡する「3rd Party Cookie」を利用せずにリターゲティング広告を配信できるので、Cookie規制の影響を受けない点がメリットです。
また、個人情報を外部のサーバーに送信しない仕組みになっているため、Cookieのように複数のサイトをまたいでユーザーの行動を追跡することはできません。
Privacy Sandboxとは
Protected Audience APIは、「Privacy Sandbox」のひとつとして提案されています。Privacy Sandboxとは、ユーザーのプライバシーを保護しながらWeb広告の効果的な配信を目指すGoogleの取り組みです。
2019年にリリースされたPrivacy Sandboxは、現在も多くの広告主やWebブラウザとともに開発が進められており、その技術の数はすでに30を超えています。Cookieを使用しないトラッキングや広告効果の測定はもちろん、ユーザーが安心・安全にインターネットを利用できる環境の構築を目指しています。
Privacy Sandboxは2023年9月20日をもってトライアル期間が終了し、Chromeユーザーの99%がAPIを利用できる状態になりました。
Protected Audience APIが必要な理由
Protected Audience APIは、これからのWeb広告業界に不可欠な技術です。その理由として、Cookie規制の本格化が挙げられます。
Cookie規制とは、ユーザーがブラウザでWebサイトを訪問したときに、ユーザーの情報を一時的に保存する「Cookie」という仕組みを規制する動きです。Cookieには、ユーザーIDやパスワードなどの「属性情報」やサイトの訪問回数などの「アクセス情報」などが保存されます。近年、これらの情報が個人情報や個人関連情報とみなされ、データ収集や取り扱いに規制がかけられるようになったのです。
なお、Cookieには次の2種類があります。
- 1st Party Cookie:サイト内だけで機能するCookie
- 3rd Party Cookie:複数のサイトを横断して機能するCookie
自社サイトを訪れたことのあるユーザーに対し、外部サイトでも自社の広告を配信するリターゲティング広告は、3rd Party Cookieの仕組みを活用しています。現在、Cookie規制の主な対象となっているのは3rd Party Cookieなので、今後はリターゲティング広告の配信が難しくなります。そのため、Cookieの代替技術となるProtected Audience APIが重要視されているのです。
これからもリターゲティング広告の配信を希望している広告主にとって、Protected Audience APIは不可欠なものになっていくかもしれません。
Protected Audience APIと従来の手法の違い
Protected Audience APIと従来のリターゲティング広告の違いは、「Cookieによってユーザーを識別するかどうか」というポイントです。
これまでは、異なるCookieを付与することによってユーザーを識別して、一人ひとりの行動に応じてリターゲティング広告配信をしていました。
一方でProtected Audience APIは、匿名化・一般化されたオーディエンスグループ(インタレストグループ)を使用して広告を配信するため、ユーザーを識別することはありません。また、ユーザーの情報を外部サーバーに送信することがないので、プライバシーに配慮しながら広告の最適化を行えます。
Protected Audience APIをオプトアウトする方法
Protected Audience APIは広告主とユーザーの双方にとって有用性の高い機能ですが、利用を希望しない場合はブロックすることも可能です。
オプトアウトの具体的な手順は、次のとおりです。
広告主の場合
広告主がProtected Audience APIの機能をブロックしたい場合は、次の設定を行います。
- Googleアドマネージャーにログインする
- 「管理者>全般設定」をクリックする
- 「広告表示設定」から「Protected Audience API」をオフにする
- 「保存」をクリックする
上記以外にも、ChromeのPermissions-Policyを使用して、サイトでAPIを完全に無効にする方法もあります。
※参考:Privacy Sandbox|Protected Audience API を無効にする
ユーザーの場合
ユーザーがProtected Audience APIの機能をブロックする方法は、次の3つです。
- Chrome設定の「設定>プライバシーとセキュリティ」で「サードパーティのCookie」を無効にする
- Chrome設定の「設定>プライバシーとセキュリティ>広告プライバシー」で希望しない機能をオフにする
- シークレットモードを使用する
あわせて押さえておきたいPrivacy SandboxのAPI
Privacy SandboxのAPIにはさまざまなものがありますが、Web広告と密接に関係するものは、Protected Audience APIを含め4種類であるといわれています。
ここでは、あわせて押さえておきたいPrivacy SandboxのAPIを紹介します。
Topics API
Topics APIとは、エポックと呼ばれる期間における閲覧履歴にもとづいて、ユーザーが興味・関心を抱いていると推測されるトピックを選定し、広告を表示するAPIです。
エポックごとに選出されるトピックは、その期間中にユーザーがもっとも興味を抱いた5つのトピックからランダムに抽出されます。例えば、「メイク」「料理」「映画」などのトピックに興味を抱いていると判断された場合、その内容に関連する広告が配信される仕組みです。
興味・関心トピックの分類は、実に約500種類にものぼります。Topics APIを使えば、個人を特定することなく関連性の高い広告配信ができるようになります。
Attribution Reporting API
Attribution Reporting APIとは、3rd Party Cookieを使わずに広告キャンペーンの効果を測定するAPIです。
広告視聴やクリックなどのユーザー行動は、ブラウザにのみ記録されます。広告主はユーザーのプライバシーに配慮しつつ、広告のパフォーマンスや広告枠の価値を評価できるようになります。
Private Aggregation API
Private Aggregation APIは、サイトが収集するユーザーの情報をブラウザ側が暗号化することで、ユーザーの個人情報を保護するAPIです。
従来は、アクセスしているユーザーの属性などを各サイトが知ることができていました。Private Aggregation APIが導入されることにより、ユーザーはより安心してサイトを訪問できるようになります。
長々と説明しちゃったけど、要するに「Cookie規制に対応しながらリターゲティング広告を配信できる仕組み」っていうことかな。
へぇ~!そんな便利なAPIがあるんですねっ!これからのWebマーケティングでは不可欠なAPIなのでは……!?
そうなる可能性は高いね。デモ、Protected Audience APIにはメリットとデメリットがあるから、それを理解したうえで活用することが大切かな
Protected Audience APIのメリット・デメリット
Protected Audience APIは、Cookie規制が本格化するこれからの市場でWeb広告を配信する事業者にとってメリットの多い技術です。しかし、その一方でデメリットもあることを理解しておかなければいけません。
ここでは、Protected Audience APIのメリットとデメリットを詳しくみていきましょう。
Protected Audience APIのメリット
Protected Audience APIのメリットは、次の2つです。
- Cookie規制に対応できる
- 顧客情報が十分でない事業者でもリターゲティングを行える
どのようなことなのか、詳細を説明します。
Cookie規制に対応できる
Protected Audience APIの最大のメリットは、Cookie規制に対応しつつリターゲティング広告を配信できる点です。
一度自社サイトや自社製品を閲覧したことがあるユーザーは、商材やサービスに対して強い関心を持っていると考えられます。たとえ一度離脱されてしまった相手であっても、繰り返し訴求すればより関心が強まり、コンバージョンの可能性を高められるでしょう。
Cookie規制の影響で成果につながりやすいリターゲティング広告が配信できなくなるのは、広告主にとって大きな損失です。Cookieの代替技術となるProtected Audience APIは、今後Web広告の費用対効果を高めるために不可欠な存在になっていくかもしれません。
顧客情報が十分でない事業者でもリターゲティングを行える
顧客情報を十分に集められていない事業者でも効果的なリターゲティング広告を配信できることも、Protected Audience APIを活用するメリットです。
広告媒体によっては、企業が保有する顧客情報と媒体が保有するユーザーリストをマッチングし、広告を最適化する機能を提供しています。一例を挙げると、Googleの場合は「カスタマーマッチ広告」、Metaの場合は「カスタムオーディエンス広告」が該当します。
これらの広告機能を使えば、Cookieを使用しなくても自社サイトを訪問した履歴があるユーザーに向けた広告配信が可能です。しかし、ユーザー情報を収集するツールを導入していないなど、顧客情報の収集が十分でない企業の場合は、効果的な広告配信が難しくなることがあります。
一方で、Protected Audience APIは企業が保有するユーザー情報がなくても、自社と相性のよいユーザーや自社サイトを訪問したことがある可能性が高いユーザーを狙い撃ちできます。そのため、顧客情報を集められていない企業でも、リターゲティングを行えるようになるのです。
Protected Audience APIのデメリット
Protected Audience APIのデメリットは以下です。
- 利用できるプラットフォームが限られている
注意したいポイントについて深掘りしてみましょう。
利用できるプラットフォームが限られている
そもそも、Protected Audience APIはGoogle Chromeを対象としたAPIです。したがって、safariやYahoo!などの他のブラウザを利用しているユーザーをターゲットにすることはできません。
世界的にみてもChromeはブラウザ市場のトップシェアを誇りますが、日本におけるシェア率は54.6%であり、すべてのユーザーが利用しているわけではないのが現状です。
独自のCookie代替技術を提供しているブラウザやプラットフォームもありますが、Protected Audience APIの利用に関しては、Chromeに限定されることを押さえておきましょう。
※出典:Operating System Market Share Worldwide | Statcounter Global Stats
Protected Audience APIの仕組み
Protected Audience APIがリターゲティング広告を配信する仕組みは、次のとおりです。
- ユーザーが広告主のサイトを訪問する
- 広告枠を販売するサイトで広告オークションが行われる
- オークション結果やクリック数がレポートされる
各プロセスの詳細をみていきましょう。
ユーザーが広告主のサイトを訪問する
リターゲティング広告を配信するには、まずユーザーが広告主のサイトを訪問している必要があります。例えば、ユーザーがパソコンメーカーのECサイトを訪問した場合、そのパソコンメーカーはProtected Audience APIによってリターゲティング広告を配信する機会を得られるようになるわけです。
ユーザーがサイトを訪問する際、Webサイトはユーザーのブラウザに対して「ユーザーを特定のインタレストグループに関連付ける」ことを要求します。インタレストグループとは、共通する興味・関心を持つユーザーリストのことで、オーナーあたり1,000個のグループを作成できます。先述の例でいうと、パソコンメーカーのECサイトに訪問したユーザーは、「ノートパソコンに興味あり」のようなグループに追加されることになるのです。
これによりユーザーのブラウザでは、インタレストグループごとに表示される可能性がある広告の情報が取得されるようになります。
広告枠を販売するサイトで広告オークションが行われる
続いて、ユーザーが広告スペースのあるサイトにアクセスしたときに、広告スペースの販売者によってオークションが実施されます。
オークションに参加できるのは入札に招待されているインタレストグループのオーナーのみです。売手は入札状況と広告枠の買手のデータをリアルタイムで受け取り、各入札をスコアリングして、最高スコアのものを落札します。
落札された広告は、ユーザーが閲覧しているサイトの広告枠に表示されます。
特徴的なのは、入札に関するすべてのプロセスがブラウザ上で実施される点です。ユーザーのブラウザ以外にはどのような処理が行われているのかが伝達されないため、安全な環境でリターゲティング広告を配信できます。
オークション結果やクリック数がレポートされる
一連のプロセスの結果は、レポートとして報告されます。
Protected Audience APIで利用できるレポートは、次の2つです。
- 販売者レポート:広告オークションで落札されたことを売手に知らせる
- 購入者レポート:広告枠の買手にオークションで落札したことを知らせる
また、広告のクリック数についてもレポートされます。
う~ん、Protected Audience APIの仕組み、わかったようなわからないような…。
専門的な知識も必要になるし、少し難しいよね。今までと異なる新しい技術だからすぐに理解することが難しい点も含め、Protected Audience APIにはいろいろな課題があるんだよ。
Protected Audience APIの課題
今後Protected Audience APIを活用しようと考えている広告主は、次のような課題があることを押さえておく必要があります。
- 広告効果の計測精度が高くない
- 広告配信媒体社の見極めが重要になる
- ユーザー視点を大事にする必要がある
- 専門的な知識が不可欠
各課題の詳細をみていきましょう。
広告効果の計測精度が高くない
Protected Audience APIを含むPrivacy Sandboxでは、現状Cookieほど高い精度で効果測定ができません。データにノイズが入ったり大まかな計測しかできなかったりするため、本格的に導入するときは別の効果測定方法を考える必要が出てきます。
もちろん、効果測定の精度については今後改善されていくことが予想されます。しかし、今の時点では正確なデータを得られない可能性が高いことは理解しておきましょう。
広告配信媒体社の見極めが重要になる
各広告配信媒体社では、さまざまなCookieの代替技術や広告キャンペーンの開発・提供が開始されています。今後はGoogle ChromeのProtected Audience APIはもちろん、他の媒体でもCookieレスでリターゲティング広告を配信できる技術が提供されていくでしょう。
このようなCookieの代替手法では、プラットフォーム上のデータを活用することがほとんどです。そのため、広告配信媒体社が保有するデータベースが広告配信の成果に大きな影響を与えるのです。
それぞれの広告配信媒体社では、ユーザーの属性や数などが異なります。広告配信でしっかりと結果を出したいのであれば、自社のターゲットに適した媒体社を選ぶことが大切です。
ユーザー視点を大事にする必要がある
Protected Audience APIなどの最新技術の本質は、「ユーザーのプライバシー保護」や「顧客体験の向上」であることを忘れてはいけません。単にCookie規制に対応できる技術を活用するのではなく、ユーザー視点でマーケティングを行うことが何よりも重要です。
例えば、「収集した1st Partyデータを厳格に保護する体制を整える」「ユーザーに安心して利用してもらえるセキュリティ環境を構築する」などの取り組みが有効です。また、商品やクリエイティブにもユーザー視点を取り入れ、広告自体の価値向上に取り組むことも忘れてはいけません。
信頼性が高く高品質な商品・広告を提供すれば、ポストCookie時代でもしっかりと集客を継続できるでしょう。
専門的な知識が不可欠
Protected Audience APIの活用やCookieレス時代の広告配信には、専門的な知識が不可欠です。
一般的な企業や、担当者が従来の広告配信に関する知識しか持たない場合、いきなり新しい技術や広告配信機能に対応することは難しいでしょう。そのような場合は、日常的に最新情報収集をしつつ、専門企業のサポートを受けながら広告配信を行うことがおすすめです。
発展途上の新しい取り組みだからこそ、未確定な部分や利用者側の負担が多くなってしまうのは仕方ないんだよね。だけど、そのぶん可能性を秘めていることも事実だと思うんだ。
たしかにっ!これから本格的に運用が進めば、いろいろな部分が改善されてもっと便利になっていく可能性もありますもんね!Protected Audience API、要チェックですね。
そのとおり。ライバル企業に後れをとらないように、今のうちからProtected Audience APIを含む新しい取り組みに注目しておこうね。
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LIFT編集部
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